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スネークたちの部隊が降り、二人きりになった。 連絡を待つ為、ヘッドセットを付け、運転席のシートに体を預 けた俺の膝に女の手が載せられた。 俺は誘いに気付かないふりをして地図に目を落とす。助手席の 女はしびれを切らし、すぐに声をかけた。 「ねえ、あれから元気だった? 随分会えなかったから心配だ ったのよ、これでも」 眼鏡を片手で上げながらたどたどしい言葉で声をかける。ロシ ア訛りのある可愛い声だ。 俺は眼を合わせるのはやめて「見ての通り元気だよ、やる事が 山のようにたまっているのはいつもの事だけどな」とだけ答えた。 女がじれて、俺にキスしてくる。触れるだけではなく舌が入り 込み、俺の舌を絡め取る。そのまましばらく口を吸っていたが 積極的になった俺の態度にうろたえ、彼女は身を引いた。 もともと誘ってくるだろうとは思っていたが、ここまでされて 手を出さない奴はいないだろう。 「ここじゃ狭いだろう? 後ろに行こうか」 冷え切ったシートに腰かけ、目の前に立つ女を眺める。 医者が着るような白いシングルコートに清楚なブラウス、地味 だけど明るく綺麗な色合いのスカートと品のいい皮のパンプス。 眼鏡の奥の目は、遠慮なく熱っぽい視線を俺に向けている。 「脱がないのか?」 骨折をしていて良かった事はこれくらいだ。自由がきかないの を理由にして、さんざん横着ができる。 暗に脱げという意味を受け、彼女は素直に服を脱ぎ始めた。 下着も脱ぎ、俺に近付く。目の前にある彼女の胸はブラウスの 上から見るよりもずっと豊満で、綺麗というよりも思わずしゃ ぶりつきたくなるようないやらしい肉感的な形をしていた。 この間は時間がなくてブラウスの上から悪戯したそこにしゃぶ りつく。いまにもイくんじゃないかと思うくらい色っぽい声を 上げる彼女に構わず嬲ると、そこは硬くしこって舌先に触れる ようになった。 唇を離して軽く摘む。びくりと震える体に嗜虐心を煽られ、摘 んだまま指先を擦り合わせる。 やや大きめの乳輪は俺の悪戯のせいでピンク色にふくらみ、摘 んでいた指を離して手の甲で擦ると熱く火照っているのが分か った。 スネークがつれてきた捕虜の中で、彼女が一番俺の気を引いた のは、このアンバランスな性格のせいだ。 外見は少し地味なくらいなのに、中身はハードルが低く、熱く なりやすい。おまけに美人ときている。 つい先週ここへつれてこられた時はがたがたと震えていたくせ に、話している間に妙な雰囲気になって、ついそのまま事に及 んでしまった。 俺とするまでは処女だったはずなのに、今は俺の手を引いて胸 に持っていくくらい大胆な行動を取る。 手を動かし揉む度に、勃起した乳首が指の間に触れ、気持ち良 さそうな声が漏れる。 胸を弄っているだけで達しそうな様子を見て、俺は手を下に滑らせた。 俺の指を中に咥える。きゅっと収縮して蜜が俺の指を濡らした。 俺意外を知らないそこは、狭いながらも深さがあり、相変わら ず心地良さそうだった。 弄るより入れるほうがずっと好みの俺は、座ったまま前を開け、 彼女を引き寄せてそのまま挿入した。 欲望のまま乱暴に押し込んだつもりだったが、ズズっという多 少の摩擦のみですんなり鞘に収まった。 繋がったそこはお互いの体液でぐずぐずに濡れている。擦り合 わせるように腰を動かせと言うと、彼女は素直に腰を動かし始めた。 対面で前後に腰を振らせると、俺の肉が彼女の奥に擦れる。 しばらく繰り返しているとイくのが遅い傾向にあるはずなのに、 限界がやってきた。 さすがに中に出すのは気が引けた。出す為に中から引き出そう としたが、彼女はそれを制し、俺はそのまま彼女の内部で果てた。 俺の代謝物で汚れた内腔から萎えた自分を引き出すと、彼女は そのまま俺の膝から滑り落ち、トラックの床に座り込んだ。 「キャンベル」 スネークから通信が入った。俺はいつものように答える。 「どうした?」 医療チームのあるメンバーのスキルが上がり、新薬開発に成功 したとの報告だった。 「……まあ、モチベーションを上げるようにフォローするのも俺の 役目だからな」 「どうやって?」 いぶかしげにスネークが訊く。ここでそんな事を訊けるのがス ネークという男だ。俺は答えをそのまま口にせず笑ってしまっ た。 「そうだな……あんたじゃできない事、とでも言っておこうか」
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いつ敵が来るか。 その恐怖の中、俺は彼女を… いや、違う。 この危険な状況を楽しんでいる。俺は。 見つかれば命は無い。これだけの人数を相手にする自信はないのだ。 アラートアラームが徐々に静まっていく。 俺達はコンテナの中に隠れた。こういう場所は中で自由にできるが、見つかれば逃げ場はない。 「はぁ…はぁ…」 鉄製のコンテナ、暗闇、密室状態。お互いの息遣いは良く聞こえる。 「スネーク?」 最初は何を考えているのかと思った。彼女のスニーキングスーツは目立ち過ぎる色だ。その上、超ミニスカート。挑発してるとしか思えない。 流れる金髪。 白い肌。 赤い服の裾からは太ももが半分以上覗き、俺は何度も彼女の下着を確認している。 「スネーク?スネーク?」 彼女の言葉は遠ざかる。見た目彼女は、少女にも見えるだろう。 ロリコンの趣味は無いが、男はその体にそそられるに違いない。俺も例外じゃなかった。 この服の下は、どのように女性らしくなっているのだろうか? 膨らんだ胸、何度も覗く下着が俺の理性を奪っていく。 「ちょっと!へん…」 ドサッ 俺はマウントポジションを取った。両手で彼女の手首を押さえつけ、自由を奪う。 「な、何考えてんのよ!」 ガバッ 「ん…む…」 「む…」 俺は彼女の唇を貪った。彼女も子供ではない。口内で、舌に受け答えている。 「あ…は」 唇を離した時、彼女が妖しく見えた。 上気した頬、半開きの唇からは唾液が覗き、 何より、瞳を潤ませている。切なそうな乙女の瞳が、俺を捉えていた。 「…」 「…」 外の警戒レベルは下がったようだ。俺は… 「せめて…ベッドの上で頼みたいんだけど?」 口元を軽く締め、余裕の笑みを浮かべた。 ただ、その赤らんだ頬は本心にそれ程の余裕が無いことを教えている。 「…いいのか?」 「アナタも男でしょ?…人を押し倒して、止める気?」 少々命令口調だが、彼女らしい。俺はもう一度彼女の唇を塞いだ。 「む…ぅ…」 「んむ…」 唇を離した時、彼女の表情から笑みは消えていた。 どうやら理解したようだ。どちらがプロフェッショナルかを。 うっとりとした瞳でこちらを見つめ、震えた指先で唇をなぞっていた。 「そうやって瞳を潤ませているだけでも大したモノだ」 「…年季が違うって訳ね…」 物欲しそうな唇は彼女がそれ以上の事を望む証。 心なしか彼女の呼吸が荒くなった気がした。 「こんなトコじゃ長くは出来ないわよ…」 「構わんさ。君程の美人ならすぐに終わる。何より…」 「何より?」 「君を満足させる位、俺には訳ない」 「ふふ…自信家ね?」 スニーキングスーツを全て脱ぐ訳にはいかなかった。一応着脱は最小限にして置かねばならない。 俺は下半身のズボンを降ろせば簡単だが、彼女はそうはいかないだろう。 と、思っていた。 「勿論、脱がせてくれるのよね?」 「悪いが、服の構造が…」 「簡単よ」 彼女のスーツも着脱が簡単だった。 首元に付いているチャック。それがへその辺りまで伸びている。 「ふん。随分都合の良いスーツだ」 「アナタの全身タイツみたいなスーツよりマシ…」 実際の機能性はこちらの方が良い。ただ、今その事について論争しても仕方がない為それを無視し、彼女のチャックに手を掛ける。 ヂィィ 下げていくと徐々にまばゆく、白い素肌が覗いていた。 下着は最低限の白いブラだけのぞき、彼女の、人並みにある乳房を保護している。 「あ…」 急に彼女は顔を赤らめ、作業を続けるスネークの手を止めた。 「どうした?」 「その…」 「?」 「汗…臭いの…」 当然だ。今まであれだけの激しい運動をして、汗をかかない方がおかしいだろう。ただ、男に抱かれると考えれば気になるらしい。 「このスーツ…通気が悪くって…」 レザーに近い彼女のスーツは、肌にピタリと張り付く程通気性が低い。 実際彼女の体臭など気にしないのだが、 手を止めさせてまで彼女は気を使ったのだ。そんな彼女に恥をかかせる訳にはいかなかった。 既に開ききった首元へ顔を近づける。 首と、乳房との中間点、その開けた場所には白肌の上にじっとりと浮かんだ汗の粒が見える。 「ス…スネークぅ…」 彼女の嫌そうな視線を尻目に、俺はソコに舌を這わせた。 「ひゃ…」 何度も舐めていく。 「言ったじゃない!汗をかいてるの!」 「俺は獣だからな…」 「あ…あ…」 「君の臭いは興奮材料にしかならない」 「スネーク…」 安心したのか、彼女は少しの間、舌の這う感覚を楽しんでいた。 もう抵抗は、無い。
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兄妹。血が繋がっていなくてもたった一つの、彼女にとってはたった一人の家族だった。 硝煙と血と土と砂煙の匂いしか味わえない戦場でも、妹からすれば長身の兄は誰よりも美しく、格好よく見えていた。 数少ない食糧を分け与えられた時、申し訳ないと思いながら妹は嬉しがっていた。 ああ、私はこの人の大事な人で、愛されているのだ。と。 この愛を享受しているからこそ、人の命を奪う兄を平気で受け入れる事ができた。 妹からすれば欠点の無い頼れる兄。兄妹と言う絆は永遠に一緒に居られる証、そう思って安心していた。 恋心と自覚したのは皮肉にも、別れを宣告された時だった。 「どういう…事?」 「お前の為なんだ」 兄の、結果的には最後になってしまった「人間らしい」最後の思いやり。妹の興味のある分野で一流の大学へ行く権利と、立派な戸籍。これが兄の最後のプレゼントだった。 兄妹の絆を断つ事を代償にしたプレゼント。兄はこれが正しい選択だと判断していた。 「嫌よ!…どうして」 「俺は…他人を殺めてきたこの手だけじゃない。名前、経歴、存在そのものが汚れているんだ。俺との繋がりを残せば、お前の将来に響く」 「嫌!兄さんのいない未来なんて要らない!」 「ナオミ…」 「どうして!?あの地獄を抜けられたのは兄さんが居たから!」 「…」 「…お願いだから側に居させてよ…兄さん…」 兄は俯いたまま、妹はその膝に縋ったまま、時間は経っていった。 兄の考えは変わることなく。 「…俺の世界から抜けられるチャンスは今しかない」 「…」 「…フライトは明日だ。準備は忘れるな。 …ナオミ・ハンター。お前の名前にイェーガーは無い」 その日兄は、珍しく早い眠りに着いていた。
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数日前に控えたミッションの顔合わせも兼ねての食事会……少佐が手配してくれたその席 で、私は失態を晒す事になってしまった。 「大丈夫?」 優しい声が耳元で響く。アルコールのせいでふらつく私の体は、彼女に支えられてなんとか 地面に立っていた。 「すみません大丈夫です、一人で歩けますから……」 彼女から離れて一人で歩こうとしたけれど無駄な抵抗に終わった。二件目の店で飲み過ぎ たカクテルのせいで私の足はちっとも言うことをきかず、バランスを崩して再び彼女の腕の 中に戻ってしまった。 「仕方ないわね、私の部屋に来なさい。酔いが覚めるまで面倒はみるから」 呆れたように言って私の背中を撫でる。大の大人(それも医者)が酔っぱらって看病されるな んて恥ずかしいとは思ったけれど、自宅に帰る為のバスは乗り過ごしてしまったし、他に行 くあてもなかった。 私は彼女の好意に甘える事にした。 案内されたホテルの部屋は、テレビと冷蔵庫とベッドがそれぞれ一つあるだけの質素な 部屋だった。 座る場所もないので仕方なくベッドに座ると、彼女は私の隣に座った。束ねていない金色 の髪がふわりと揺れて、淡い香水の香りが鼻をかすめた。 「水でも飲みなさい、数時間経てば酔いも覚めるでしょう」 冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターの瓶を渡してくれた。冷えたガラスの感触が心地 いい。瓶にそのまま口をつけ飲むと、強いアルコールで渇いた体の中に冷たい水が染みこ んでいった。 「……すみません」 今回のミッションではメディカルサポートとして参加する事になっているのに、その担当者 が泥酔するなんて、きっと呆れているに違いない……そう思った。 「気にすることないわ、体調のせいで酔いやすくなる事もある」 そんな私の気持ちを察してか、微笑みながら顔を覗き込んできてくれた。 ザ・ボスは……調書に書かれた経歴から想像していた姿より、ずっと女性らしく気さくで魅力 に溢れた人だ。 体は筋肉質ながらもすらりとしていて綺麗だし、顔も四〇代の女性とは思えないほど若々 しい。 長い睫に縁取られた瞳はグレイがかったブルーで、あまりの綺麗さにみとれていたら目が あってしまった。 「どうしたの、そんなに見つめたりして」 彼女はくすりと笑って、私の髪を指で梳いた。 「ずいぶん綺麗な赤ね、まっすぐで癖もないし」 指先が優しく私の髪を引っ張る。私は言葉を失って、その場でうつむくしかなかった。 おかしい……同性に触れられている感覚じゃない。 まるで男の人に触られているみたいに感じてしまい、高鳴る鼓動をなんとか抑えようとした が無駄だった。彼女の指が私の顎に触れた次の瞬間、柔らかい唇が私のそれに重なって いたからだ。 「な……何するんですか!」 驚きすぎてなかなか喉の奥から言葉が出てこない。彼女は狼狽している私を見下ろし、 悪戯っぽく笑ってみせた。 「あなた、可愛いのね……男もあまり知らないでしょう?」 抱きしめられて耳に彼女の唇が這っていく。少し低い声が心地よく耳元で響いた。 「あ、あの……私、そういう趣味ないです」 声がすっかり上ずってしまっている。急すぎる出来事に心はまったくついていけていないの に、体は彼女に触れて嬉しいと望んでいるみたいだった。 怖い、という気持ちよりも快楽を望む気持ちが優先されてしまっているようで、私は恥ずかし くなりシーツの間に滑り込んで彼女の腕からなんとか逃れた。 「あら、それでは逃げている事にはならないわよ?」 シーツを引き、私の体に覆いかぶさる。彼女の指は慣れた手つきで背中のファスナーを下 ろしていた。 ワンピースを半分脱がした後、下着越しに彼女の手が、胸に触れた。 「やっ、いやですっ……ん……あっ」 そのままゆっくりと揉まれ、思わず声が出てしまう。だんだん息も乱れてきてしまった。 ブラジャーを外す手を、もう拒む事はできなかった。 布地越しに優しく揉まれてツンと立ってしまっているそこを、彼女の爪が軽く掻くだけで体の 奥が熱くなってしまう。 悟られたくなくて閉じた脚の奥は、もうすっかり濡れてしまっているだろう。 「いい形ね、可愛いわ」 言いながら弄っていたそこに、彼女の舌が触れる。舌先で転がし、唇を当てて吸い上げ…… 左右交互にくりかえされる愛撫に私は恥ずかしいほど素直に乱れてしまった。 強い快楽は麻薬のような作用があるのかもしれない。たまらなくなって彼女の唇にキスをし たのは私の方だった。 まったく動じない彼女の唇に舌を差し入れ、慣れないキスを繰り返していたら……いつの間 にか自分が裸になっていたのに気がついた。 キスに夢中になっている間に脱がされてしまったらしい。 「あの……ダメです、そんな……」 「大丈夫よ、悪いようにはしないわ」 脚の間に彼女の手が滑り込んで行く。たいしたキスや愛撫をしていないのにたっぷり濡れて しまっているそこを触れられるのは顔から火が出るくらい恥ずかしかった。 「ダメ、やっぱりだめです……」 なぞられただけで蕩けてしまいそうになり、私は慌てて制止した。 「ここまできて、そんなつまらない事を言うの?」 私の気持ちを見透かすように笑い、制止を無視して彼女の指は私の中に入ってきた。 外より中の方が感じるなんて、自分でも初めて知った。男性とのセックスは経験あったもの の中をかき回されても鈍い快感しか得られなかったのに……二本に増えた彼女の指に、 私はあっけなく達してしまった。 指を引き抜かれ恐る恐るそこに触れてみると、シーツを濡らすほどの愛液で潤んでいた。 私はだるい体で 寝返りをうち、枕に顔を埋めた。 さっきまで恥ずかしい声を上げてさんざん乱れていた事を思い出してしまい、まともに彼女 の顔なんて見られない。 「どうしたの、拗ねちゃって」 くすくすと頭の上で笑い声が聞こえる。 「やめてくださいって、言ったのに……」 子供のような反論しか出てこないのも、恥ずかしい。 私は彼女に頭を撫でられあやされながら、アルコールの力を借りてこのまま眠りに落ちて ゆく事に決めた。 終
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(最高の、十分間…!) 体の痛みさえ快感に変わる。私のジャックが、私を超えた。 あとは彼がこの場から速やかに離れてくれれば良い。私に止めをさして。 彼女は泣きそうになりながら自分を見下ろすスネークに微笑みかけた。 いくらカモフラージュ率が高いからといってOYAMAは止めたほうが良かったわね。 「ありがとうジャック」 「ボス…」 もう時間が無い。けれども彼にもうひとつ辛い思いをさせなければならない。 胸を痛めながら、パトリオットを彼に差し出した。 「ジャック…いえ、スネークこれをけして手放さな―――!?」 体が宙に浮きがっしりとホールドされる。 パトリオットを受け取る代わりにスネークはボスを担ぎ上げWIGに向かって走り出したのだった。 「ジャ、ジャック!?あなた何をやってるの!任務を放棄する気!?」 「大丈夫だ、任務は完了なんだボス」 「は?ジャック、いいから放せ。そして私に止めをさせ!蛇は二人もいらな……聞いているの!?」 ビクッと最後の怒鳴り声にスネークが条件反射で怯んだが 「いや、大丈夫だから」などと適当に答えながらスネークはボスに従うことなく無線を開いた。 145.73 「スネーク、あなたすごいじゃない!ザ・ボスをキャプチャーしたのね?中々できるものじゃないわ!」 「あぁ、少してこずったがCQC返しと麻酔銃でスタミナキルを狙って 弱らせて生け捕りにすることが出来た。」 「ザ・ボス、別名『無情の歓喜 ザ・ジョイ』はコブラ部隊を率いて 第二次世界大戦終結に多大なる貢献を果たした、伝説の英雄と呼ばれているわ。 またスネーク、あなたと共に独自の近接戦闘術、“CQC”を考案。この辺はあなたの方が詳しいわよね。 そしてゼロ少佐と共に、SAS(イギリス陸軍特殊部隊)の立ち上げにも関わったの。 様々な功績から特殊部隊の母としても世界ではその名をとどろかせているわ。 あなたがヴァーチャスミッションで行ったHALO降下も彼女の考案で…」 「で?」 「?」 「で、味は?」 「……あー…味?ちょっと待ってて。 ―――残念。ソ連側のデータベースに以前はあったんだけど今はもう調べられないみたい。 でも食べてみれば?好きなんでしょ?味はどうあれ」 「いや、確かにそうだが、データがあったほうが…。 ボスの機嫌を損ねる食べ方だけは避けたいんだ。ガッカリさせたくもないしな」 「またまたぁ。10年も飼育されてて何言ってるのよ。 それに共食い、直食いはお手の物でしょ。あなたヘビ何匹食べたっけ。あ、そうそうヘビといえば」 ―通信終了― 「ボス。俺はこの任務の中で人間は他の生き物を食べることで… つまり抹殺することで生きているということを学んだ。 これから俺は断腸の思いで任務を完遂するためにボスを頂こうと思う。 これで俺の任務が完了する。あ、つまり」 「『食べるに二つの意味を持たせたんだボス。結構面白いだろ?あ、面白くなかった?どう思う?なぁ、ボス?』 と言ったらこのパトリオットが火を噴くから覚悟なさい」 「俺は、俺に忠を尽くし国に忠を尽くすことが両立できないかなんとか考えたんだが…」 「いいから、このマイクロチップを持って、私を撃ってとっととアメリカに帰りなさい!」 「いやでもあんな胸見せられたら誰だって悩むもんだ」 「ジャック!」 「すいません」 なんだか弱らせたはずが元気になってきた。 ああ、しかしこのボスの突っ込みが懐かしい。ボケの血が騒ぐ。 しかし今隙を付かれてCQCを仕掛けられてはたまらない。 スネークは仮死薬を無理矢理ボスの口に押し込みエヴァの待つWIGに乗りこんだ。 140.85 「少佐、さきほどボスを…抹殺した。オセロットやMIGとも少々ゴタゴタしたがなんとかなりそうだ」 「うむ、よくやってくれたスネーク。そのままエヴァと帰還してくれ。…くれぐれも、寄り道はするなよ」 「寄り道ができるほど間接や骨がくっついていないし、二人からの説教がどれだけ長引くかにもよる」 「うん?何か言ったか、スネーク」 「いや、なんでもない。これよりなるべく速やかに帰還をする。任務完了だ。」 <何処へ行ったのだろう> 花畑の中にゆらゆらと現世に残る思念が揺らめいた。 <彼女の亡骸は…> 彼女とスネークとの決着がついた後、ザ・ソローはMIGの作戦行動を妨害すべく空高く飛んだ。 彼女の亡骸をMIGの爆撃で傷つけたくなかったからである。 もしもスネークが彼女を倒せなかった場合の保険。MIG爆撃にはそんな意味もあった。 <決着がついたからといって二人に気を利かせてちょっと離れたのが失敗だった> ソローはMIGのコックピットに乗り込み「もう帰っていいよ」と兵士の耳元で囁き MIGが慌てて引き返すのを見送ったのち、再び花畑に戻れば…一体この状態はなんなんだ。 彼女の魂は?亡骸は?馬は?弟子は?俺は? <置いてけぼりは哀しい…> <哀しい…> <哀…> ソローの思念が霧散しようとしたところを、同じく魂だけの存在が引き止めた。 <ペイーン!> <!> <ボスは、なんか色々あって結局生き残りましたよ、ザ・ソロー> フューリーとペインがソローの肩を労わるように叩いた。 <NTR?(ネトラレ?)> <あれだけ雨を降らせて自己主張していたのに、残念じゃったなソロー> <ザ・フィアー…ジ・エンド…> ソローはふふっと寂しげに笑った。これまで一人で二年待ったんだ。 今度は皆と待つことができる。哀しくは、無い。ああ、でもNTR?NTRって悲惨じゃないか俺? ―――これで五人揃った、今度は地獄の底まで一緒… 五つの魂は寄り添いあいながら、ふわふわと西へ、アメリカの方へ飛んだ。 この世界に、国境なぞ存在しない。 「ジャック、そこに座りなさい」 WIG機内の空気が震えた。 「いや、でもボス…」 「っ…!こっちに寄るな!二メートル以上離れろ!いいから座りなさい!」 オセロットの奇襲も退け、一目散に帰還するMIGも避け、 ボスの手当てをせんと蘇生薬を飲ませたとたんこれだ。 しかし悲しいかな10年間の教育の賜物であるスネークは正しい体育座りで縮こまるしかなかった。 「お前は一体何を考えて任務にあたっているんだ? 私はあんなちゃらんぽらんな姿勢を教えたか? 正々堂々、戦士として戦った私相手に『スタミナキル狙いで麻酔銃とCQC返しだけで戦った』だと? この任務が国にとってどれだけ重大なのか分かってこんな行為を?」 「……」 だがスネークとて10年間の経験がある。ボスの説教を右から左へ流すことは比較的容易であった。 勿論、ボスは国を裏切ったんじゃないのか、とか スタミナキルでないとカムフラージュが手に入らないんだ、 などと話の途中に質問するのはご法度だ。説教が三倍に長引く。 「聞いてるの!?返事は!?」 「あ、ああ…」 適当に返事をすると再びボスは説教をくどくどくどくど始めた。ああ、すごい楽だ。 花畑でのボスの真意を決して軽く見ているわけではない。 ただこの人の望むことよりも良い案が浮かんだからそうしただけだ。食べれば万事OK。多分万事。 幸い本日はボスの体力も落ちている。比較的早めに話は終わり、手当てを始めることができるだろう。 そんなことをぼぅっと考えているとエヴァがクスクスと笑いながら話に加わった。 「ザ・ボス、大人しく食べられて、任務完遂させてあげればいいじゃないですか?」 その時には私も混ぜてね、スネーク。と付け加えて彼に向かって片目を瞑った。 スネークはそれに力なく笑って答えた。三倍フラグが立った。通常の三倍だ。 「口をはさまないでちょうだい、タチアナ。 そう、それから!食べるとか食べないとか、私を煙に巻いてお前は…」 エヴァのアピールは嬉しいんだが…スネークは体育すわりから立ち上がり、ボスに手を伸ばす。 力ずくで行くしかない。 以前ならばボスに対して強硬姿勢をとろうなどとは考えたことも無かった。 このミッションはこれほどまでに自分を大きく成長させてくれたのだ。 少しこの過酷な任務に感謝しつつスネークは説教を続けるボスの腕を取った。 今度はその動きに唇を引き結んでボスはたじろいだ。パトリオットは当然彼女の手元にあるはずも無い。 なるべく距離を取ろうと後ずさるが傷が痛み思うように体が動かすことができなかった。 「…ジャック、それ以上近寄ると…やめなさい!やっ…」 「ボス。大丈夫、俺に任せてくれ。じっとして」 「ま、任せる!?やめろ、離せ!馬鹿な真似は、っあ…離し…」 聞き耳を立てながら操縦を続けるエヴァは 背後でだんだんと小さくなる裏返った抵抗の声にお腹を抱えて笑った。 あの伝説の英雄が、彼とこんな風に話すなんて。これまでじゃ全く想像も出来ない。 ヴォルギンの元で地獄に近い光景を見、スネークと共に行動し、 あわやというところで死にかけたこの数週間。 これだけ笑えることができるなんてことも想像出来なかった。まるで、夢のようだ。 暫らくしてエヴァはスネークが何か作業を始めたのに気がつき、少し釘をさした。 「スネーク、床で食べるのは下品よ。食事はきちんとした所でしないと。 それが料理に対する礼儀ってモノよ。サバイバル環境にいないんだったら尚更ね」 「おいおい人聞きが悪いな、エヴァ。ちょっと麻酔銃で寝かせただけだ」 抗議をしにスネークが操縦席に顔を出した。 「早く手当をしないと、治りが悪くなる」 「そんなこと言って、応急手当にかこつけて体をじっくり診ようとか考えてるんじゃないの?」 ビクッとスネークが体を震わせた。…図星? 「それともちょっと触診してみようかとか、この際体の隅々まで診ないといけないとか? ザ・ボスと会うのは何年ぶりといってたかしら、スネーク」 「いや、そんな目的は断じてない。迅速なCUREが結果的に速い回復に繋がるわけで…」 目をそらしながらしどろもどろに続けるスネークを遮って悪戯っぽく笑い三本指を立てた。 「即席ラーメン3パックで手を打ってあげるわ。 まさかアメリカに帰ってそちらのFOXメンバーに会う前にフルパワーのCQCで全身骨折…なんて嫌よね」 「…OK。ボスを食べるまでが任務だ。その前に俺は死にたくない」 うなだれるスネークに、こつんと頭をぶつけてエヴァは取引成立を喜んだ。 「なかなか、これってハッピーエンドでいいんじゃない?…すっごい妬けるけど」 その後数度か怪我人が目覚め、そのたびに乱闘が起きかけたが スネークは落ち着いてスタートボタンを押してCUREで回復し 毛利小五郎と江戸川コナンよろしく麻酔銃を駆使し無事アメリカ領空内まで到達した。 「あと数時間で着くわ。寄り道、してくでしょ?」 「そう言ってもらえると、光栄だな」 操縦席の機器が放つ青、緑といった光に照らされて二人は見詰め合った。 「…スネーク」 「なんだ?」 「OYAMAペイントは落としてくれる? 暗い中浮き上がって怖いんだけど」 「ああ、忘れていた」
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群像劇 スレタイ キャラクター 詳細 備考 日付 穂乃果「賢い犬ほのわん」 穂乃果・絵里 詳細 20140909 穂乃果「絵里ちゃんにプリン食われた……」グスグス μ’s・A-RISE 詳細 コメディ 関連作有 20141027 希「twittyun(・8・)」 μ’s・A-RISE・他 詳細 コメディ 関連作有 20141111 海未「……意表をつかれました」 μ’s 詳細 ほのぼの・群像劇 20141209 【ラブライブ】コミカルのぞみんラジオ 希・μ’s 詳細 関連作有 20150217 にこ「私はあんたみたいな負け犬とは違うっ!」 絵里「いいえ、同じよ」 絵里・にこ・花陽・ツバサ 詳細 群像劇 20150306 【安価】 『ニュースの時間です!全国に謎の狂犬病が蔓延しています!感染者に噛まれないように細心の注意を払ってください!』 【SS】 μ’s 他 詳細 続き物・安価有 20150407 希「胃薬が手放せなくなった」 希・μ’s 詳細 コメディ・群像劇・関連作有 20150725 【SS】穂乃果「龍狩りだよっ!」 μ’s・A-RISE 他 詳細 安価・冒険・バトル 20150924 穂乃果「壁は・・・」 μ’s 詳細 群像劇 20160106 穂乃果「最大トーナメント?」 μ’s・A-RISE 他 詳細 バトル・友情 20160503 海未「叛逆の60分」 μ’s 詳細 群像劇 20160528 穂乃果(24)「ありがとうございました、またのお越しを~!」 μ’s・雪穂・Aqours 他 詳細 群像劇・SF・ミステリ・パロディ 20160823 英玲奈「東京が」ツバサ「停電で」あんじゅ「大変よ!」 A-RISE 他 詳細 短編・群像劇 20161013 穂乃果「行くよ!リザードン!」 μ’s・A-RISE・Aqours 他 詳細 冒険・バトル 20161225 穂乃果「お線香焚いてあげなきゃ…」 μ’s 他 詳細 群像劇・シリアス 20170523 闇金西木野くん μ’s 詳細 群像劇 20170711 希「ハッパと銃と銃とカネと」 μ’s・Aqours 他 詳細 群像劇 20171015 穂乃果「休日」 μ’s 詳細 ほのぼの・群像劇 20200919 【SS】海未「戦国乱世で踊りたい」 μ’s・Aqours 他 詳細 バトル・群像劇 20210928 スクールアイドルドラフト会議 μ’s・Aqours・虹ヶ咲・Liella! 他 詳細 安価・ほのぼの・群像劇 20211013 ツバサ「紳士な淑女たち」 A-RISE・μ’s・Aqours・虹ヶ咲・Liella! 詳細 パロディ・群像劇 20211212 R-18G スレタイ キャラクター 詳細 備考 日付
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元スレURL 【SS】安価短編物語 概要 1レス安価短編劇場 タグ ^μ’s ^Aqours ^A-RISE ^高坂雪穂 ^絢瀬亜里沙 ^安価 名前 コメント
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【ダンガンロンパ】霧切響子はクーデレかわいい【FILE.25】 ※SSにはスーパーダンガンロンパ2のネタバレが含まれている場合があります。 閲覧の際は自己責任の下でよろしくお願いします。 備考欄に「※2ネタバレ」が記載されているものはネタバレが入っています。 レス ID タイトル 備考 66 0q3WXFnQ 事故ちゅー 73 0q3WXFnQ 66の続き 104-112 UcMNluAr 舞園×霧切 151-154 ArayqqG0 苗木君のぬいぐるみ 183-187 uso798mu 雨 446-449 3GwyJywf 無防備な霧切さん 697-699 NB6COdvM 花火 980 OE1MQ+Ws 挨拶
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【SASUKE】STAGE 試合SSその2 禅谷回那の故郷は山の中だ。 陰鬱な村を一歩出れば、どこまでも広がる鬱蒼の森々。 鬱に鬱を重ねてなおまだ足らぬほどの、胸の苦しさ。 ――でも、その苦しさを感じたのは、自分の世界の外側を知ったから。 テレビに映された洗練され綺羅びやかな都会が、羨ましかったから。 だから。 この広くて息苦しい薄暗がりが、たまらなく嫌だった。 * * * * 萩原セラフが咄嗟にハンドライトを消し、物陰へ身を隠したのは、そこに物陰が『できた』からだった。 前後共に遮蔽のない、一本道の天然洞窟を歩いていたのに。 (……時刻に劇的な変化はなし。意識の連続性は保たれている) 腕時計を確かめつつ、遮蔽と足元に触れる。地面は起毛したマットのような素材。遮蔽は紙張りのプラスチック。 もちろん、天然の洞窟にいきなり発生するものではない。 (つまりはここが戦闘空間) 光源といえば、空に瞬く星くらいで、自分の手元すら分からぬ暗闇だ。 ハンドライトに甘えたくもなるが、ここが戦闘空間であれば、必ず倒すべき『敵』がいる。不用意な行動は 「ナルル~ッ!」 不用意な行動は…… 「どういうことナル!? さっきまで洞窟だったのに~!」 「……ちょっと」 「暗くてなんにも分かんないナル! セラフ、明かりをつけて……ナルッ?」 セラフに遮蔽へ引っ張りこまれたナルナルは、頭の一点を触手で撫でる。 「なにかテープで引っ付いて……」 「!」 言い切る前に、セラフは素早く『それ』をむしり取り、仔細確かめることなく遠くへ放り投げた。 粘着テープの巻かれた、貨幣のような感触だった。遅れてちゃぽん、という水音。 「……不用意な行動はやめて」 「ナル……ごめんナル~」 注意を受け、素直にうなだれるナルナル。 基本的にナルナルは、潜入任務中に状況を介せず騒いだりするマスコットではない。時にその行動は、セラフを助けることすらある。 しかし、今回のように突然かつ埒外の事態に対しては、動揺し、無思慮な動きを見せる場合もあった。 セラフは全感覚を集中させつつ、先ほどの敵の行動について考える。 貨幣。常識的に考えて危険なものではないが、敵が魔人である以上その常識には意味がない。 あるのは何らかの意志を持って、ナルナルに貨幣を取り付けたという事実。何の意志を持って? ……攻撃と考えるのが妥当だろう。 貨幣を投げ捨てた方角を見る。目に見えて分かる異変はない。 こうなると放るまえに検分しておけばという気持ちも芽生えるが、魔人相手にそんな悠長なことを言えるものではない。 「ナルナル」 クラゲの頭部分に口を近付け、こそこそと囁く。こうすればナルナルもこちらに合わせてくれる。 「今のはどっちから来たか分かる?」 「ナル~……みぎの方?」 「右ってどっち?」 「おはしを持つほう!」 「あなたどれで持つの?」 「ナル?」 無数の触手の内一本が持ち上げられる。 「決まってるのね……」 「あれ? これだったかな? こっちだったかな?」 決まっていなかった。 「……方角を指して。飛んできた方角」 そう指示すれば、ナルナルの触手が一斉に一定の方向を指した。遮蔽の向こう側だ。 (相手からの動きはない。向こうもこちらの様子を伺っている……) あちらとしても、セラフが動きを見せなければ動き辛いのだろう。膠着状態。 こういう時、何かオトリにできるようなものがあれば…… 「ナル~?」 「…………」 目のない頭で見上げるナルナルに、セラフは静かに溜息を吐いた。 * 「すっ……すみません!」 物陰から気弱そうな少女の声が上がったのは、回那の攻撃から数十秒ほど経った頃だった。 「わ、わたし……その、迷い込んじゃって……洞窟を歩いてたら、いきなりこんな所に……」 (……迷い込む) 回那の一族が施した呪術的封鎖と、長野県庁の手配した物理的閉鎖。 その両者を突破して、SSダンジョンに『迷い込む』ことができる存在があるか、と言えば…… (なくはないんだよなあ……) 神秘も、文明も、絶対のものではない。両者に精通する禅谷回那は、その事実をよく知っている。 「ま……魔人なんですけど。能力も全然、弱っちくて。ほら、こんなのしか出ないんですよ?」 「ナル~ッ! こんなのってひどいナル!」 そう言いつつ姿を見せたのは、デフォルメしたクラゲのようなキャラクターだった。子供っぽい声で、少女の言葉に反論している。 続けて、少女も姿を現す。星明かりに照らされた姿は、伸びた前髪で片目の隠れた少女。両手を恐る恐る挙げて、降伏の姿勢だろう。 「すみません、これってどうすれば出られるんでしょう……?」 「近づかないで」 対する回那はぴしゃりと言い放った。びくりと少女が足を止める。魔人の相手に無用の接近を許す道理はない。 彼我距離は30メートルほどだろう。こちらには屋根がある。あちらから姿は認められまい。 「……いい? これは戦闘なんだ。勝者は先へ進み、敗者は外へ放り出される」 「ま、負ければ良いんですか?」 「ああ。それで晴れて、本物の空の下に戻れるだろう」 「分かり、ました……負けを認めます」 「な、ナル~ッ!? セラフ、そんなの」 「静かにして」 少女――セラフとクラゲのやり取りに苦笑しつつ、辺りの様子を伺う。 得も知れぬ構造体。戦闘参加者の片方が敗北を認めた以上、変化が出ても良いはずだが…… (……何もない?) それとも、この空間のどこかで変化が起こったのか。そう思った回那の目がセラフから外れた瞬間、 動いた。 * 口だけの降伏は意味を持たないという、安保局からの情報は得ていた。 降伏のサインの両挙手は駆け出すと同時に後ろ腰の銃へ。相手の姿は定かでないが、声で位置は特定できる。 瞬間に詰める3メートル。まだだ。相手は戦い慣れていないという確信があった。即応はできない。 「っ……!」 気付いた。動作に入る間に3メートル。シルエットが見える。腰から提げられているのは刀か。 そして3メートル。相手が腕を振るった。先のように貨幣のようなものを投げてくるのだとして。 (私が速い) 散弾じみた複数の飛翔物を左腕で受け、踏み込みながら右手を突き出す。対魔人弾を装填されたそれの引き金を、引く。 「ッ!!」 瞬間、ぐらりと身体が揺れた。銃口は星空を差して咆える。反動にもたついた? 否。 (……重い!) それは腕に貼り付いた青い貨幣の影響であった。『光子1.5bit』。禅谷回那の呪術能力! そしてその、何も撃ち落とせなかった銃撃に加えて、もう一つの情報があれば、回那もまたその確信へ至れる。 (蠱毒数えのカウントがゼロってことは……『カードキーを受け取ってる』ってことじゃないか! カマトトを!) セラフが左手の貨幣を払い落とし――粘着テープの扱いには慣れている!――回那が接近する。 距離を詰めるまでに銃撃を二度。しかしながら、回那はそれを最低限の動きで回避する。 銃弾なぞ所詮は直線運動。魔人の身体能力があれば、正面から躱すことはさしたる問題ではない。 (実戦はともかく、戦闘経験はあるか) 内心評じるセラフは、銃撃を止めて左手にナイフを構えた。対する回那はまたも貨幣を弾いてくる。 複数の硬貨を握り込み、指先の動きだけで散弾めいて弾き飛ばす『ぜになげ』は、商人たれば当然の技術だ。 受ける側のセラフはそれをナイフで弾き、あるいは右手で受け、すぐ左手で払う。 その貨幣に『重量を増す』効果があるとしたら、それを投擲する=重量が重くなれば落下する、という都合上、 接触と効果発動までにはラグがあるとセラフは見ていた。 事実、その読みは当たっていた。貼り付けに用いる粘着テープは、熱と電撃を受ければ焼けてしまい、使えるのは青だけだ。 セラフの銃は的中あたわず、回那の銭投げは対処可能。 必然、両者は接近戦にもつれこむ。 「やると見た!」 刀を抜き払う回那が。セラフが応じるようにナイフを構え……否、投げた! 回那は身をよじって躱し、そのままの勢いで踏み込み、斬りつける。対するセラフは更に踏み込み、その手を押さえ、掴む。 「は……っ!」 投げ倒す。合気道を軸としたマーシャルアーツ。ナイフの投擲も、この超接近状態に持ち込むための布石でしかない。 回那は投げられる過程で刀も落とし、セラフに抑え込まれた。そのまま後ろ手に腕をねじ上げる。 「……ッだだだ……!」 「そちらは、人間を斬るのには慣れていなかったようね」 腕足をじたばたさせているが、時間の問題だ。抵抗が落ち着き次第、銃で頭を撃ち抜く。それで終わる。 「フフ……実際そうさ。こんな事態は想定していなかった」 「…………」 「ダンジョンに潜って、魔人と戦い、勝てば願いが叶うなんてなあ。時に、一体君はどんな願いを……っだだだっ!」 「……ない」 願い。 当然それは、萩原セラフがこのダンジョンに挑む動機ではない。 任務ゆえに挑み、任務ゆえに勝つ。それが工作員・萩原セラフだ。 「ナルナルは~、ほんとにお願いごとがかなうなら、おいしいご飯をいっぱい食べたいナル!」 「……」 「みんなでご飯を食べて、楽しくおしゃべりして、それで……ナルッ? セラフ、怖い顔にナッてる!」 「そのナルナル言ってるのは君の本音の代弁者か?」 「まさか」 抵抗が弱まってきた。予定通りに銃に手をかける。 「工作員はそんなこと考えない」 「否定するとは、それを肯定しようという圧力に抗うということだ。銃撃一つで決着できるこんな時でも、君は抗わずにいられないんだね」 「あなたこそ、銃撃一つで死ぬと分かってるのによく口が回るのね。詐欺師?」 「いや、商人だ」 「なら詐欺師みたいなものね」 「そして呪術師でもある。これは……詐欺じゃない」 セラフが後頭に銃を突きつけると同時、全身に電流が走るような感覚を覚え、身体が跳ねた。 (何っ……!) 少し遅れ、比喩でなく電流が発生したのだと気付いた。否応なく全身が痙攣する。 誤魔化すように撃った銃弾は、回那の頭の横の床を貫くに終わった。 「セラフ~~!」 (発生源、はっ、) 回那はセラフを振り払い、銃を奪おうとする。そうはさせまいとセラフが身体を離せば、電流は弱まった。つまり、回那自身。 ……セラフの与り知らぬことだが、正確には回那の羽織る淡黄のサマーコートが発生源であった。 会話で時間を稼いだのは、即席で呪いをかけるため。呪い同士の相互干渉を防ぐため、着衣には呪いを施さないのが基本である。 距離を取る双方。回那の手には再び赤い刀があり、セラフは拳銃のみである。ナイフの予備を抜く余隙はなし。 即ち、刀の前に弾を当てるか、弾を凌いで刀で斬るかの一合。 片やセラフの神経には電流の残滓が残り、片や回那の腕には極められた痛ましい痺れが残る。 思考の暇もない、肉体の反射と本能による決戦は、 「おい止めろ、どっちも止めろって!」 「「!?」」 白い照明の起動。照らし出される構造物――SASUKE。 そこに現れた、Tシャツ姿のスタッフと、その中心に立つ筋骨隆々の中年男性により、止められた。 「一体何してんだ! 明日にはここで収録があるんだぞ!」 「「……あなたは……」」 君の名は―― 「「……ミスター・SASUKE!!」」 山田勝己。 初回SASUKEより挑戦を続ける男。筋肉の極限祭典、SASUKEを象徴する男であった。 Dangerous SS Dungeon 2-1 禅谷回那 VS 萩原セラフ 戦場 ―― SASUKE SASUKE……それは狂的筋肉のアトラクション。地獄の障害物競走 全4ステージからなる激烈な苛みの道程を駆け抜け、勝利の頂点を目指せ! 禅谷回那、萩原セラフ。 二人はSASUKE運営の設営したテントで、共に余りの仕出し弁当を食べていた。 「何があっても不思議なことはないと思っていたが」 回那は苦笑する。 「よもやこんなことになるとはね」 「……」 「ナルとはね~」 「……静かに、ナルナル」 ……両者は戦闘を止めなかった。 ミスターSASUKEの制止に与えられた僅かな休息により、双方の身体への痺れ、痛みが和らいだからだ。 だからセラフは引き金を引いて弾丸を命中させたし、回那は必殺の斬撃を放っていた。 そしてそのどちらも、戦いを決着することはなかった。 有り体に言えば、無効化されたのだ。 その後、二人はSASUKEスタッフに取り押さえられ、ミスターSASUKE・山田勝己から諸々の説明を受け、今に至る。 曰く――二人はSASUKE本戦参加者としてエントリーされており、参加者である以上、SASUKE以外で双方の決着はつけられない。 至極単純、至極明快なルールが、この空間を支配していた。 「しかし君、セラフだったか。ミスターSASUKEを知っていたんだね」 「……別に。昔、テレビで見かけただけ」 「私もだ。子供の頃、娯楽なんてテレビくらいしかなくてね……ん、やっぱ唐揚げは美味しいな」 「味が濃いわ」 回那は足を伸ばす。 「普段はNHKしか見れなかったが、大きな番組だと放送局が調整してくれてね。オールスター感謝祭とか」 「クイズとマラソンの」 「そうそう! それでSASUKEも見られたんだ。懐かしいな……」 「あんなことが起こって、SASUKEはもう収録されなくなってしまったナルからね~」 「第30回大会のニュースは信じ難かったな……つい最近だよな?」 「2014年5月。1年前よ」 ……読者の皆様には信じ難い事実かもしれないが、この世界で、SASUKEは既に『終わっている』。 委細は伏せられており、国家安全保障局の一エージェントであるセラフすらその真実を知ることはできない。 ただ、その第30回大会で魔人による凄惨な事件が発生し、SASUKEは今後一切開催されなくなったというニュースだけは知っている。 これにより日本全体に吹き荒れる反魔人の風潮が強まったのは、言うまでもない。 回那は弁当をつつきつつスタッフから渡された資料を弄ぶ。 書いてあるのは、SASUKEに挑戦するにあたっての注意事項に、各エリアの解説。 「結構禁止事項多いんだな。ベルトコンベアの停止部品をとっかかりにするなとか……」 「何だか複雑ナルね~。でもワクワクにナル!」 「同意だよ。……ん? どこに行くのかな、セラフ?」 その場を立ち去ろうとするセラフは、振り向くことなく言った。 「身体を休めるの。魔人とはいえ、私がSASUKEを勝ち抜くことは容易じゃない。せめて備えないと」 「へえ、乗り気だね」 「乗る以外ないからでしょ」 「待ってセラフ~! まだひじきが残ってるナルよ~!」 「回那にあげるわ」 「いやいらないよ」 セラフの去ったSASUKE運営テントで、回那は残った弁当を掻っ込むと、パイプ椅子に横座りする。 「そう、乗るしかない……乗るしかないんだが」 その視線は、闇の中のSASUKEステージに向けられていて。 「……その前に、できることはある」 * 翌朝。 どこからともなく集まってきたSASUKE挑戦者に紛れて、スタッフによる事前の説明を聞く回那とセラフの姿がそこにはあった。 「わぁ~! 何だか見たことある人がいっぱいナル~!」 「……そうね」 適当な参加者を捕まえて会話を試みたが、皆一様に『SASUKE参加者である』という自認を持っている。あのミスターSASUKE、山田勝己と同じく。 この全てがSSダンジョンの造り出した幻影だとしたら、それを駆動するものは狂気としか表現しようがない。 「や、おはよう」 「おはようナル~!」 「……おはよう」 気楽に声をかけてきたのは回那だった。セラフと同じく、動きやすいジャージを身に着けている。色は青。 「昨晩は何をしていたの?」 間髪入れず、待ち構えていた問いを投げかける。 「宿泊キャンプに入るのが随分遅かったようだけど」 「……別に? 少しミスターSASUKEと話していただけだよ」 「そう」 納得の態度と内心は裏腹で、セラフはその言葉を少しも信じていない。 回那の横顔がくたびれていることに気付いているし、身なりも昨日ほど整っていない。 有り体に言って、疲労し、気が抜けていた。 (……やはり) セラフは眼前のSASUKEステージを見る。障害物となる各エリアはもちろん、そこを繋ぐルートまで、そこは『色』で満ちている。 昨晩回収しておいた貨幣が不自然な青色だったことから、回那の能力が色に起因するものではないかという予測は立てられていた。 そして、回那を抑え込もうとした時に発生した電撃から、その種類が複数にわたることも。 さらに厄介なことに、それらの効果は回那の任意で発動・中止できるらしいことも。 (たとえば、あの動くヘッジホッグが青い硬貨で急停止したら?) (しがみつく丸太の手すりが黄色く塗られて呪われていたら?) (あの2連そり立つ壁は……何もしなくても頭がおかしいけど……) 考えを巡らせ巡らせ、目を閉じる。キリがない。 『セラフ、今日は何を作るナル?』 『テレビリモコンを使った夜間赤外線動体探知機よ』 『やっ……夜間赤外線動体探知機!?』 『ナルナル、語尾』 もちろんセラフも夜間警戒していたが、まさか休まない訳には行かないし、夜闇を単独で監視するには限界がある。 「よう、お二人さん」 そんな二人に声をかけてくる男があった。ミスターSASUKE、山田勝己である。二人は自然に頭を下げた。 「お疲れさまです」 「大丈夫か? 参加できそうか?」 「はい。昨夜はご迷惑をおかけしました」 二人の参加姿勢を確かめると、山田勝己は大きく頷く。 「それじゃあ、頑張って。まあ、SASUKEは男の祭典とか言われるけど、最近はジェンダーがなんとか言うし」 「ありがとうございます」 「若い子のさ、頑張ろうって気持ちは応援したいから」 「はい」 それだけ言葉を交わすと、山田勝己は去っていく。他にも声をかけたい相手がいるのだろう。セラフもすぐに、コースの検討に戻る。 だから、回那がその男の背に視線を注いでいることに、彼女は気付けなかった。 * SASUKE1stステージ、通称『SASUKEの森』を、セラフは制限時間ギリギリで突破した。 「お疲れ様ナル~!」 ゴール地点から降りてきたセラフを、ナルナルが迎える。差し出されたタオルも飲み物も、今はありがたかった。 そして、出迎えるのはナルナルだけではない。 「お疲れ。間に合ってよかったね」 先立ってゴールした、禅谷回那である。 「……ええ」 「2連そり立つ壁、やばくない?」 「かなりやばかった。けど想定通りに抜けられたわ」 「勢いをつける以上に、跳躍の踏み切り点が大事なんだよね」 「あと方向。成功者はみんなちゃんと、斜めの足場から垂直に跳ぶことができてる」 何ということのない風を装いながら、セラフは胸中の疑問を抑えこんでいる。 すなわち、なぜ能力での妨害を行わなかったのか――もちろん、聞いたところで意味はない。 (1stステージだと効果が薄いと思われた? けれど後になれば、禅谷回那もそのステージを突破しなければ『勝ち』にならない……) 「ナルル~……セラフ、嬉しくないナル?」 「……嬉しいわ」 真意を隠す、なれどまったくの虚飾でもない言葉を口に、セラフは1stステージに背を向けた。 ミスターSASUKE・山田勝己は、そり立つ壁でタイムアップとなった。 * (スワップサーモンラダーの掴み棒は緑のプラスチック……) (水中を泳ぐバックストリームゾーンを泳いでいる最中に電撃を受けたら……) (壁を持ち上げるウォールリフティングの上に青いスポンジ……!) 2ndステージ『鋼鉄の廃墟』も、セラフの警戒は甲斐なく、一切の妨害は入らなかった。 「セラフ、お疲れ様ナル~!」 (どういうつもりか知らないけど……) 差し出されたタオルで汗を拭き、乳酸の溜まった全身の筋肉をアイシングしながら、萩原セラフは3rdステージを睨む。 (……おそらく妨害は『来ない』。魔人能力の制約か何かが理由で) 禅谷回那の姿はない。彼女も2ndステージの突破はつらそうだった。肉体を休めることに専念しているのだろう。 「セラフ、3rdステージの自信の方はどうナル~?」 ナルナルがマイクを模したと思しき棒を顔に突きつけてくる。セラフは溜息混じりに答えた。 「制限時間はなくなったけど、2nd以上に筋肉をいじめるエリアが揃っているわ」 「ナルほど~。具体的にはどの辺りが危ないナル?」 「どれも、と言いたいけど、最大に注意しなきゃいけないのはクレイジークリフハンガー……ねえ、それ何の真似事?」 そして、3rdステージ。 静かに準備運動をしていたセラフの耳に、観客のどよめきと実況・初田啓介の言葉が届く。 「禅谷回那選手、ここで脱落! またもクレイジークリフハンガーが挑戦者を一人奈落へ突き落としたーッ!」 クレイジークリフハンガー。 足場のない空間を、わずか3cmの突起に指をかけて、横に体をずらしながら渡っていくエリアである。 たった3cmの指先に全体重をかけ、傾斜を、段差を移り、挙句の果てに、後方の別の突起へ『飛び移る』ことを強いられる。 まさに狂気。実況の通り、ただでさえ少ない3rdステージ挑戦者を容赦なく飲み込んで行く魔のエリアである。 (……そもそも、SASUKEの『勝負』というのが分からない。ルール上でそんなものは規定されていないけれど) 手指に滑り止めのパウダーを着けながら、セラフは思う。 (少なくとも、ここを越えれば……禅谷回那には『勝った』と言えるはず) 指先に全神経を集中しつつ、動く。ここまでのステージで、既に身体は疲弊しきり、腕には乳酸が溜まっている。 (ッ……だから……このまま、ここを越えて……) 血中酸素が欠乏し、魚が喘ぐように息をする。 (越えて……越えて) 突起の終端へ来た。だが、終わりではない。 ここを跳び越え、反対側の突起に捕まらなければならない。 (……越えて、私は……) 意を決し、指で壁を突く。身体が浮揚し…… (どうするの……?) 指が、かかる。 かかった、はずだった。 * 夜。 ついぞ手が届かなかったFINALステージ、栄光の尖塔を禅谷回那は見上げている。 突破者による最後のチャレンジも終わり、あとは全ての終幕を待つばかりだ。 「結局、私たちの勝負はどうなるのかしら」 背後から声をかけてきたのは、着水の濡れを乾かした萩原セラフである。 「さあ、勝ち負けを決めるということであれば……私の勝ちだろうけど」 「……何故?」 「私は飛び移ったあときちんと指がかかったからね。君は滑って落ちた」 「そのあと動く前に滑って落ちたのだから、あなたも変わらないじゃない」 「でも私の方がちょっとマシさ」 「私の方がタイムは速かった」 「落下までの速度が?」 「前エリアを突破するまでの速度がよ」 何となく始まった不毛な言い争いは、どちらともなく黙り込んで終わった。二人並んで、夜闇の中照らし出される塔を見上げる。 「……聞いても良い?」 「何かな」 「どうして妨害をしなかったの? あなたの能力なら、誰にも気付かれず妨害工作をすることができたはず」 「するつもりだったさ」 「……ミスターSASUKEに止められた?」 「君が思っているような形ではないけどね。そう――」 フ、と回那は息を吐く。自嘲のように。 「私は願いを失ってしまったのさ」 * そもそも違和感があった。 この戦闘空間が再現されたSASUKE空間だったとして…… (なぜ『挑戦者』であるミスターSASUKEが、運営と行動を共にしている?) 禅谷回那はその疑問を解消すべく、夜動いた。 セラフが去るのを待ったのも……あるいは、早く去るようにあれこれと声をかけたのも、そのためだ。 回那はすぐさまミスターSASUKEの元へ向かった。彼は宿泊用テントの前で筋トレをしていた。 「精が出ますね」 「こうしてないと落ち着かなくってな」 筋トレが終わるのを待ち、回那は声をかける。 「確認をしたいんですが」 「うん?」 「あなたは元々、SASUKEの運営側の人間じゃあないはずだ」 「ああ」 ミスターSASUKE、山田勝己は頷く。そして、こう続けた。 「だけど今、ここに来てからははSASUKEをやってる」 「……ん?」 その言葉の真意を、一度では掴み損ねる。『ここに来てから』。こことは? SASUKE会場……のことではない。 「……まさか、あなたは」 「SSダンジョンを攻略し……願ったんですか」 「この空間を。SASUKEに挑戦できる……それだけの空間を!」 「そうなるね」 山田勝己は笑う。 「あんな事件があって、SASUKEは終わっちまった。だけど俺は、諦められなかった。だってほら、俺には……SASUKEしかないから」 涙まじりの名台詞として知られるその言葉を、山田勝己ははにかむように口にした。 「そしたら何か、運営側の人間になっちまって。まあ実際俺が運営してますし、挑戦できれば何でも良いのだけど」 「……それで、挑戦を?」 「そう。もう5回目になるかね」 「5回目!?」 「挑戦して、失敗したら一年くらい修行して……で、今回は5回目。ん、4回で次が5回目だったっけ?」 回那は立ちくらみした。 この山田勝己は、SSダンジョンを攻略して、願ったのだ……『無限にSASUKEへ挑戦できる世界』を! 「だ、だからってそのためにSSダンジョンを攻略するなんて……信じ難い」 「願いが叶う、っちゅうたらな。いてもたってもいられなかったんですよ」 「そして、攻略して……いや、いや。そのことはもう良いんだ」 回那は首を振る。山田勝己がSSダンジョンの攻略者であるなら、確かめなければいけないことがあった。 「……私は、SSダンジョンの真の制覇者はほとんど少ないと考えています」 「そうなんですか」 「あなたの戦った中に、恐ろしいまでの強さを持った、何か異常な……魔人を殺し慣れた魔人はいませんでしたか」 「いた」 即答。 「恐ろしく黒くて強い……鉄パイプみたいなもんを何本も持った奴がおった。何だったんかな。阿修羅みたいだった」 「……それも、倒した?」 「倒しましたよ。したらそいつ、黒いゴミ、灰っていうんですか。みたいになって、消えてしまって」 「跡形もなく?」 「ええ。残ったもんといったら、俺もお店屋さんで貰った黒いカードくらいで。いつか弔おう思って、部屋に置いてありますけど」 見ます? と山田勝己が言った瞬間には、回那はその情報を受け取っていた。 勝利数4。これは山田勝己のカード。 そしてもう一枚の……山田勝己が手にしたカードの勝利回数は、 (30) ……その『撃破者数』の異常な多さは。 禅谷回那の仮説した『願いを刈り取る者』の存在が真実であると同時、 それが既に山田勝己に斃され、この世にいないことを示していた。 * 「……願いが絶たれたと思った」 回那の目は、FInalステージの塔の、その先の空を見ている。 「実際にそう言ったんだ。そうしたらミスターSASUKEに言われてね。『本当にそんなのが願いだったのか』って」 「違ったナル?」 「違いやしない。数多の願いを刈り取る存在の持つ武器なら、極上の呪物になるはずだ。私はそれを求めてきた」 けれど、と回那は言葉を続ける。 「そんなん願いじゃない、と言われてね。そんな、人を傷つけるようなことが願いかと」 「そうナルよね! お願いっていうのはもっと幸せなものナル!」 「いいや。呪術師が呪い多き呪物を願うのは当然だ。私もそこに間違いはないと思ってる。……でも、人としてはどうか」 人として。 興味なく聞いていたその言葉に、萩原セラフの意識はにわかに引っ張られた。 「私のもっと根本的な願いっていうのが、もしかしたら何かあったんじゃないかって思ってしまってね。ミスターSASUKEを見て」 「……思いもするかもね。すべてが叶う願いを使って、こんなことをするなんて」 「だろう? なんて馬鹿馬鹿しい! ……だが、それは本当に山田勝己が願ったことだと感じたんだ」 「本当に、願う……ナル」 「極上の呪物を手にした所で、何となるか。結局それは呪術師として上位の存在になれるだけだ。……君は『洗濯の魔法』の寓話を知っているか」 セラフは首を振る。 「魔法使いの国の話だ。彼らは洗濯をするのが面倒だと言って、どんな汚れも落とす魔法を編み出した」 「すごいナル!」 「ところが、ある魔法使いが気付いた。『最初から服に汚れを弾く魔法をかければ良いんじゃないか』。そして洗濯の魔法はいらなくなった」 「で?」 「また別の魔法使いが思いつく。『そもそも汚れない服を作れば良い』。そして別の魔法使いは『服を着なくても恥を感じない世界なら良い』」 「エ、エッチナル~!!」 触手で顔(らしき部分)を押さえるナルナルの頭を、回那が撫でる。 「表層の願いを叶えても、本当に満足できるとは限らない。だから願いは掘り下げなければいけない……だけど、私は私の願いが分からなくなった」 「……だから妨害をしなかったっていうの?」 「ただ一点の願い。頂点に手をかけるという、願いに挑む大きな流れに身を任せれば、何か分かるんじゃないかと思ってね」 やがて、夜の空に花火が上がった。色とりどりなものではない。余った演出火薬の処理である。 遠くの方から、SASUKE収録の終わりを告げる声が聞こえる。セラフは少し笑って、手を差し伸べた。 「お疲れ様」 「……セラフ」 「何はどうあれ、回那。あなたとSASUKEに挑めて良かった」 その言葉に、回那の表情も明るくなる。その冷たい手をしっかりと握りしめた。 「私こそ。この先どうなるかは分からないけど、こうしてSASUKEに挑戦できたことは、大事、なっ」 瞬間、セラフはその手を、回那の身体を引き寄せて。 「セ……セラフ~~!?」 ナイフを深々と突き立てた。 * * * * 萩原セラフの故郷はアパートの一室だ。 いつも疲れた表情の両親は滅多に帰って来ず、独り。 家族での団欒などあり得ないという失望に充ち満ちた、暗い匣。 ――でも、その苦しさを感じたのは、自分の世界にない幸福を知ったから。 工作番組の垣間に見える、美しく幸せな家族像が、羨ましくて、妬ましくて。 だから。 その広くて息苦しい薄暗がりが、たまらなく嫌だった。 * * * * 「が、ハバっ」 刺突の衝撃で血を吐く回那を、蹴り飛ばす。ナイフが抜け、鮮血が噴き出した。 「今、今すごく良い話だったナル! どうしてこんなことにナルナル!?」 「静かにして」 ……回那の話から分かった重大な情報は二つ。 この空間がミスターSASUKEの願った結果であること。 ミスターSASUKEはSASUKEとSASUKEの間に、修行の時間を取っていること。 そして、自分たちを拘束した時に言われた、『参加者である以上、SASUKE以外で双方の決着はつけられない』という言葉。 (つまり、一度一度のSASUKEには『終わり』がある) (SASUKEが『終わった』以上……私たちは参加者ではなく、) (SASUKE以外で決着を着けられる!) そうして放った一撃は、見事にセラフの仮説を証明してくれた。回那の身体から血がどくどくと流れる。致死量―― 「っきゃあっ!?」 突如、激しい熱がセラフの肌を襲った。返り血を浴びた服が、手が、首筋が焦げるようだ。 何事かと確かめる前に、眼前の回那がゆっくりと立ち上がるのが見えた。激しい蒸気と噴煙を上げながら。 「なっ……」 「……血。髪。その他なんでも良いが。人間から落ちた『人間であったもの』も、また良い呪物なんだ」 自らを襲った、そして眼前の現象を説明できる要因は一つしかない。 (赤色は、熱量……彼女自身の血も含めて!) 「……自分の血を焼いて致命傷を塞ぐ、なんて、できるもんだな……いや死ぬほど痛いんだが……」 ふらつきながら立つ回那へ、セラフは銃撃する。しかし回那はそのまま地べたに転んだ。 銃弾を回避するためではない。血を撒き散らすために。必然、セラフはそれに当たらないため大きく動かざるを得ない。 (……左手に火傷。痛い。多分自由には動かせない) セラフは冷静に状況を改める。 (傷を塞がれたのは……大動脈を斬ったから。狙うなら心臓か、脳。これなら塞がれても、『止まる』ことで死ぬ) 対する回那も、ふらつく足で距離を取った。不意打ちに対する咄嗟の反撃には成功したが、危機的状況に変わりはない。 (油断してたな……武器がない。呪物はいくつかあるが、それも本当に、お守り代わり程度だ) せめて武器を。あの刀を。回那は身体の調子を把握すると、自らの居室めがけて駆け出す。 「どっ、どうするナル? 追わなくて良いナルか?」 「……追いはするけど。逃がしてあげる」 言葉通り、数発の銃弾を追撃に放ったのみで、セラフは止まった。そして遠隔信管の起爆スイッチを手にする。 「な、ナル~っ! それは~!」 「仕損じた時のために回那の部屋に設置した爆弾よ。全部読みどおり」 必死に走る回那は、宿泊テントへ飛び込んだ。それと同時に、セラフはスイッチを押す―― 「やめといた方がええで」 背後から声がすると同時に、ドサリ、と何かが足元に置かれる音。 設置したはずのプラスチック爆弾。 「……なぜ」 「あんたがそのえらい物騒なのを仕掛けたのは、SASUKEの開催中やったからな。分かった。ここそういう場所らしいんで」 「でもSASUKE期間中に起爆はしなかった。……なぜ関わるの? これは私と彼女の戦いよ」 声の主……ミスターSASUKE、山田勝己。この空間の主たる男は、その問いに対し頭を掻いた。 「勝負ならSASUKEでつければええんや。どっちが先に優勝するか。修行期間も、設備も用意する」 「ふざけないで」 「若い人らにはな、そういう斬った張ったじゃなくて、もっとひたむきになれるまっすぐな願いを持って欲しいんや」 「……願いなんて!」 セラフは声を荒げる。そして、その感情の発露を恥じるように奥歯を噛みしめる。 やがて、セラフは駆け出す。 ミスターSASUKEはもはや何も言わなかった。 * SASUKEスタッフはいつの間にか撤収していた。跡には忘れ去られたSASUKEステージのみが残る。 その支柱の一つが、熔断されて倒れ落ちた。連鎖して、SASUKEのステージ全体が軋み、捻れる。 「危ないナルーッ!」 「黙って!」 ミシミシと襲い来る鉄の構造を躱し、飛び込み、安全圏へ。誘導されたということは承知の上。動きを止めない! 「よく動ける……!」 「そっちこそ」 セラフはシトリン――すなわち電撃を帯びた鉱物の弾雨を躱し、赤い刀を構えた回那を銃撃する。ギリギリの所で躱す回那。 SASUKE前の相対とは違う。負傷の深い回那は十全には動けない。しかしセラフは左手をやられている。 苦しいのは回那だが、セラフも攻め手に一歩欠ける戦いだ。 「一つ聞いて良いかな!」 互いに制覇した障害物を遮蔽とした膠着状態で、声を上げたのは回那だった。 「さっき、君が私を見逃した時、私は罠かもしれないと思って、死を覚悟したんだが……何もなかった。それは何故だろう」 「……『あった』のよ。でもジャマをされた」 「ミスターSASUKEに?」 ……かつて。 遠いかつて、テレビだけが唯一の心の寄す拠だった頃、その中で輝いていた男。 努力と希望の象徴だった男。 そんな彼が、巡り巡って邪魔になる未来なんて、考えたこともなかった。 「……下らない!」 もはやセラフの感情は、自戒しても止められぬ程に沸き立っていた。 苛立ちだ。ことあるごとに願い、願いと言い募る者への煩わしさだ。 「願いなんて、下らない。どうせ何も叶わないくせに……!」 かつて。 大好きな工作番組を見ながら、これを両親とやりたい、という思いによって目覚めた魔人能力『Doubt in Yarborough』。 これで願いが叶うと喜び……次の夜に警察から伝えられた、両親が自分を捨て失踪したという絶望の報せ。 その日から、萩原セラフにとって、願いとは叶わないものと決まっている。 「そんなものはいらない……私は、工作員は、ただ任務をこなし続けるだけ」 「……辛い人生だ」 「そうかもね。でもそんな感情、工作員の私には存在しない」 人間らしい感情。少女らしい情動。 それらは全て、工作員の自分から取り外し――傍らのナルナルに預けている。 ナルナルの発言は、すべて『人間としての』萩原セラフのものなのだ。 「だとしても辛い。何も願えず生きていくなんて、現代の人間には辛いだろう。ただ生きているだけでは充足できない現代だ」 「分かった口を……!」 動いたのは回那だった。またも刀を振るい、構造を熔断する。バキ、バキン、と連鎖し、セラフが潜んでいる地点の頭上の照明が落下した。 当然、セラフはそれを察し、飛び出ている。 (蹴りをつける……!) 苛立っていた。願いを口にする者、そんな者に感情を波立たされる自分に。 だから手早く終わらせる。現実、時間をかけると山田勝己に介入される危惧すらあった。そうなれば状況はあちらに傾くだろう。 銃撃しながら回那の元へ迫る。SASUKEで疲労した片腕での射撃で、簡単に命中できるとは思っていない。相手の動きを射竦める威嚇だ。 回那もまた、刀を収めて両手に呪物を構えていた。片手には大きな青い水晶玉。もう片手には黄色の数珠。 黄色の珠が襲い来る。SASUKE前の戦いとは違い、常に電流を帯びている。触れれば痺れ、足が鈍り、そこへ集中攻撃を受けて終わりだ。 だから狙わせない。 「……!」 セラフに珠が命中した、と思った瞬間、煙幕が広がった。石灰の煙幕! SASUKE設営作業に使われた、白線引きを元に作り出したものだ。 一瞬怯んだ回那だったが、攻撃を続けた。しかし命中の手応えはない。ポチャンポチャンと、後方の水溜りに落ちる音ばかりが響く。 珠が残り一つになると同時、煙幕側面からセラフが飛び出した。その手には銃。 「っなら!」 回那は青い水晶を投げ、呪いを発動させた。 その床は構造の都合上、中央を支えとしてシーソーのように上下動する仕組みになっている。床の端は今まさにセラフが立っている箇所だ。 ガタン、という音と同時に、勢いよくセラフの細い体が跳ね上がる。吹っ飛ぶ先は、先ほどまでの黄珠が落ちた水の中! だが、同時に。 「え」 四角い包装が回那の目の前に放り投げられていた。 セラフが吹っ飛ぶ直前に投げたそれは、プラスチック爆弾。一度は仕掛け、ミスターSASUKEに取り外されたもの。 (狙った通り……) あとは着水前にスイッチを押せば良い。爆発により、回那は吹っ飛ぶ。先の負傷もある。生きてはいまい。 (「やめといた方がええで」) (「もっとひたむきになれるまっすぐな願いを持って欲しいんや」) (下らない) (私は勝つ) (勝って……任務を果たして……) フラッシュバックしたミスターSASUKEの言葉を努めて冷笑し、スイッチを―― * * * * そして、現在。 「一、ニ……」 「ナル! ナル!」 萩原セラフは、ミスターSASUKEによるトレーニング空間により、次のSASUKEに向けて身体を鍛えていた。 強いられてのこと――ではない。戻った所で失敗の責を負うことになる。鉄砲玉のような扱いを受けるということだ。 (ならばそれまでに、せめて……身体を鍛えるのも、悪くはない) セラフは結局スイッチを押し損ねた。ミスターSASUKEの言葉によってではない。 この場を越えて、任務を終えて、どうするか。 今まで敢えて考えなかったこの命題に答えられなかった時、ナルナルの言葉を思い出してしまったのだ。 (「ナルナルは~、ほんとにお願いごとがかなうなら、おいしいご飯をいっぱい食べたいナル!」) ……その言葉が、セラフにとって一端の真実であるという認識が、最後にセラフを引き止めた。 美味しくもない仕出し弁当を共に食べた。ただそれだけの相手を殺すということに。 (……下らない) 結局スイッチは押されず、爆弾は起爆せず、セラフは帯電した池に落ちて、負けた。 禅谷回那は先へ進むのだろう。本人も見失った願いを探して。 「ナル~! この唐揚げ美味しいナル!」 「……味が濃いし、栄養バランスが悪いわ。衣はがしなさい」 「な、ナル~!?」 こうして、萩原セラフの、願いに向き合う日々が、始まった。 このページのトップに戻る|トップページに戻る